解説付き週刊連載「身体構造力〜日本人のからだと思考の関係論〜」❺ 第1章「身体と構造の力」の3 「人間は左側に重心をおく動物」
2025/09/16
人間は左側に重心をおく動物
陸上競技、オートバイレース、競輪。これらトラックを周回するという競技は全て左回りの設定になっています。それはなぜか、人間は左回りが得意だからです。
これは右利き左利きはあまり関係がありません。左回りの方が記録が伸びやすいのです。皆さんも自転車に乗ったりするでしょう。右折よりも左折の方がしやすいと思いませんか。人間は左側に重心軸をおく方が動きやすいのです。これはなにもトラック競技をしている時だけではなくて、普段何気なく立っている時でもそうです。歩いている時でも、座っている時でもそうです。人は左側に重心軸をおくようにできているのです。見た目には分かりませんが、普通の人は立ち姿勢の時に、重心的には「右足を前に出して休め」の姿勢をとっています。重心を左足におき、そして右足は少し浮かせています。利き足を浮かせて自由度を高めておいた方が、万が一、バランスを崩した際に体を捌きやすくなるからです。股関節は重心側(左)の方が骨頭が内旋して内側に入り込む傾向があります。親指側に重心がかかるからです。結果として、先ほど説明した「仮性短縮」になりやすい。一方で非重心側(右)は股関節が外旋してつま先は外側に開く傾向があります。外股気味になるということですね。右足は外側に重心が乗りやすいので靴底の外側が減りやすい傾向があります。一般的に重心側(左)は筋肉が引き締まっていく傾向にあります。
一方で非重心側(右)は浮腫みが起きやすくなります。それは外側重心であるためにふくらはぎの伸縮が行われにくいというのが理由として挙げられます。右の靴の方がきつく感じることはありませんか。ひどい人は1サイズ変わる場合もあると聞きます。利き足だから成長がよくて右足が大きくなったという話をたまに聞きますが、ほとんどの場合、それは浮腫みのせいなのです。
浮腫みといえば、血管以外に身体にはリンパ管という経路があります。主に老廃物の代謝に関わる系統ですが、これも左右で少々違います。下半身と左上半身が1系統、右は右上半身のみという左右非対称のものになっています。整体師に脚の長さが違うと言われて悩んでいる方もいらっしゃると思います。しかし、人の左右のバランスはそもそも対称ではないのです。では、なぜ対称が正しいと思いこんでしまうのでしょう。それは、人間の美的観念にはシンメトリーを好ましく思う傾向があることと関係があるのかもしれません。損傷や傷病による構造の病的な歪みは、その個体の生命力に関わる問題ですから、その感覚自体は私たちの本能的な希求なのかもしれません。遺伝子レベルでは細胞分裂は完全な対称を理想としていますから、それらも関連しているのでしょう。また、均衡が平和をもたらすという感覚は、闘いとともに生きてきた人間の感覚としては納得できるものです。しかし、私たちは〝不完全な自然〟に適応して進化してきました。その意味で、私たちの歪みは自然が要求する偏りであり、歪みなのです。それらを否定してしまっては、行き着く先は人間そのものを否定することに繋がります。
人間は無意識のうちに左足に重心を乗せているのが普通
身体の左右差を異常に気にしてしまう患者さんがたまにいらっしゃいます。シンメトリーに対する病的な固執は、他人よりも身体の歪みを気にしているようでいて、根底には深刻な身体に対するネグレクトを抱えている気もします。それは潔癖症にも似た心理です。人間という存在は、微生物との共存なしには本当の清潔を確保できないという事実があります。しかし、その〝ありのまま〟を認めることができない、その態度は自然というものの存在自体を受け入れられない心性なのです。Alex John Beckという写真家がいます。彼は人間の顔の片側だけを切り取り合成した写真集を作りました。「シンメトリーな顔こそ最も美しい」ということを証明するためにです。しかし、その結果は意外なものでした。写真集を見たほとんどの人が「片側だけで作った顔ではない、その人の普通の顔が美しい」と感じたのです。人間は左右のバランスが違うのが自然なのです。人は観念の迷路に迷いこむと、そんな当たり前にある自然の美しさを忘れてしまうの
です。
構造の力と脳の不可分な関係
人間はどうやってバランスをとっているのか
人間の身体の中はとても偏っていますが、私たちは日常生活で不便を感じることはありません。普通に立っているだけではなくて、歩いたり、走ったり、跳んだり跳ねたり、ダンスをすることもできます。体操選手などの特殊な訓練を受けた人間はさらにもっと高度な運動も可能になります。宙返りしたり、空中で身体をひねったりと自由自在です。人間がその科学の粋を極めたであろう「ヒューマノイドロボット」がいまだに人間のように歩いたり走ったりすることすら叶わない現状を見るにつけ、人間の身体のポテンシャルの深遠さにいつも感動を覚えます。いや、身体バランスの深遠さに感じ入るのは、体操選手などが行うアクロバチックな動きだけではありません。例えば、美容師はお客さんの頭と髪に身体を屈ませるなどして自分の手の位置を合わせつつ、ハサミを使う指先は非常に細かい運動を行っています。自分が思い描いた理想の髪の形を思考しながらその挙動全てを同時に行っているのです。手や指先に集中して作業している際、彼ら
の心に〝自分の姿勢の維持に関しての意識〟が上ってくることはないでしょう。それはすこぶる自然に行われています。身体は私たちが意識せずとも様々な方法を駆使してバランスをとってくれているのです。それは一般には自律神経や運動神経などの働きによるものだといわれています。まず、身体の中にある水分がバランサーの役割をしています。私たちの下半身が左に傾いた場合、上半身の状態がそのままだと不安定な状態になりますよね。重心が安定しませんし、フラフラします。そしていずれは左側に倒れこんでしまいます。しかし、そんな状況でも私たちはあまり意識しないで安定を保つことができます。実はその際、私たちは上半身の水分を右に偏らせることでバランスをとっています。血管やリンパ管などが収縮したり弛緩したりして水分の量を調節しているのです。また、その際には内臓も動きます。心臓などは最大で6センチほども動くことが確認されています。もちろんこの体内バランスは左右だけではなくて、前後のバランスでも同じようなことが行われています。言ってみれば、船のバラストの応用編です。船の場合はあらかじめ積んでおいた「バラスト水」を傾いた船体を平衡させるために放出したりしますが、そ
のようなことを私たちの体内は常に行っているのです。
筋肉の制御
全身の筋肉や腱には紡 ぼう錘 すいと呼ばれるセンサーがあります。このセンサーのおかげで筋肉や腱がどのくらい伸ばされているか、どのくらいの張力がかかっているかが分かります。それらの情報から今の筋肉の長さなども分かるわけです。それらのデータは小脳で解析されているといわれており、そういったメカニズムによって私たちは手や足を好きな場所に動かすことができるわけです。普段、何気なく髪をかき上げたり、鼻の頭をかいたりしますが、そこへ指先を持っていくという行為は、それに必要とされる腕を持ち上げる動きの量やその角度、肘を曲げる角度、指を曲げる角度などが計算されることで達成されます。それらの運動は筋紡錘、腱紡錘からの情報を小脳が解析することで可能になっているのです。小脳がなんらかの病気などで毀損されてしまった場合には、こういったことがうまく行えなくなります。小脳変性症などの小脳がうまく機能し得ない病気を疑う際には「指鼻テスト」などを行います。腕を伸ばした状態から指先で自分の鼻を問題なく触ることができるかといった簡単なものですが、小脳に問題がある場合には非常に難しくなってきます。また、筋肉の制御がおぼつかないということは、姿勢の制御もうまくいかなくなるわけですから、普通に立っている時もふらついてしまい、じっとしていることができなくなってしまいます。このように人間の運動を可能にするためにとても重要な小脳ですが、一つ面白い特徴があります。それは一度覚えた筋肉のバランスの記憶を長期的に保存するということです。
小脳は長く覚えている
皆さんも子供の頃、自転車に乗る練習をしたことがあるでしょう。最初はなかなか乗れませんが、一度バランスのコツを掴んでしまうと、乗れなくなるということはありません。大人になると自転車にはほとんど乗らないという生活が長く続くことがありますが、観光地などに行ってレンタルサイクルなどを借りると、最初は多少ふらつくかもしれませんが、やはりすぐにスイスイと乗れます。小脳がそのバランスを覚えているからです。「昔取った杵柄」という慣用句は小脳の長期記憶という特徴に支えられているわけです。しかし、この小脳の特性には少し困ったこともあります。一度、歪んだ骨格による筋肉のバランスを覚えこんでしまうと、それも長期に亘って記憶が残存することになります。その歪みが慢性化するということにも繋
がるわけです。小脳は脳全体の体積の10パーセント程度にもかかわらず、約半分のニューロンが集まっています。全体の筋肉系の制御とさらに記憶までも司っているのも頷けます。また小脳は脳内のスムーズな情報の伝達や注意力の持続にも大きな役割を果たしています。余談ですが、ADHD(注意欠陥多動性障害)の人は、この小脳の一部が小さく、うまく機能していな
いともいわれています。
身体が硬くてうまくストレッチができないという方がいます。私たちは、その理由をどこかで「筋肉の物理的な長さが足りないのだ」と捉えがちですが、実は多くの場合、小脳の制御に過ぎないのです。ただしそれは全身の構造のバランス、動的平衡をとるために行われている制御であって、小脳は〝身体の構造の歪みを反映しているだけ〟です。それを矯正するには、それなりの身体構造の摂理に対する理解、また積極的な教育的刺激と、日常生活における心がけこそが重要になります。要は習慣の問題ということです。
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