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解説付き週刊連載「身体構造力〜日本人のからだと思考の関係論〜」❻ 第1章「身体と構造の力」の4 「歩行こそが人間を人間にする」

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解説付き週刊連載「身体構造力〜日本人のからだと思考の関係論〜」❻ 第1章「身体と構造の力」の4 「歩行こそが人間を人間にする」

解説付き週刊連載「身体構造力〜日本人のからだと思考の関係論〜」❻ 第1章「身体と構造の力」の4 「歩行こそが人間を人間にする」

2025/09/23

歩行こそが人間を人間にする

この地球には直立して二足で歩行するということが通常である動物は今のところ人間しかいません。人間の身体構造を学べば学ぶほど、人間とは二足で歩くことを可能にするために進化発展してきたといっても過言ではないことが分かります。逆の言い方をすれば、むしろ人間が人間であるためにこそ正しい歩行が重要ということになります。私たちのDNAの基本的な設計は人間ですが、人はこの世に生まれてから、環境の中でそれを作り上げていく必要があるのです。人間の脊柱が弯曲しているのは皆さんご存知でしょう。他の四足歩行の動物と違い、二足で歩行する間の脊柱は横から見るとS字状の形をしていますね。首の背骨(頚椎)は前方に弯曲しています。胸の部分の背骨(胸椎)はそこから緩やかに後弯していて、また腰の部分の背骨(腰椎)は前弯しています。この弯曲は重力に抗して背骨を垂直に屹立させておくにはどうしても必要なものです。背骨を垂直に屹立させておくには、脊柱起立筋や腸腰筋などの抗重力筋や各椎間を繋ぐ靱帯などによる固定と制御も重要ですが、実はそれらのみでは不可能なのです。この脊柱の弯曲構造、それ自体が〝重力に応じること〟で可能になります。一部分に荷重が集中せずに効率よく力を分散させる「構造そのものによる力」が脊柱にはあるのです。この正しい背骨の弯曲の状態のことを生理的弯曲といいます。この生理的弯曲の中にも種類があって、胸椎の後弯のことを一次性弯曲、頚椎や腰椎の前弯のことを二次性弯曲といいます。なぜこのようにいわれるかには理由があります。この生理的弯曲、実は赤ちゃんは少し違うのです。基本的に赤ちゃんには前弯がありません。お腹の中の胎児だけではなくて、生まれてからも最初は前弯がありません。大体生後10〜12ヶ月ほどで赤ちゃんは二足で歩くようになります。そうなってから頚椎と腰椎の前弯が本格的に形成されてくるのです。つまり、頚椎と腰椎の前弯は二次的に形成されてくる弯曲ということで二次性弯曲というのです。赤ちゃんは二足で歩くことで完全に人間の背骨になります。まさしく赤ちゃんが二足歩行で歩く一歩目は人間となる第一歩なのです。そして二足歩行には脳の発達にとっても重要な関係があります。

 

ニホンザルの二足歩行と脳

現代では日光さる軍団などでお馴染みの猿回しですが、ステージに出るお猿さん達はとても賢いですよね。あくまで人間的な尺度で見た時のお話ですが、かなりのエリートといえます。様々な芸をして私たちを楽しませる彼らですが、訓練をしたからといって全てのお猿さんがあのように芸ができるようになるわけではありません。様々なお猿さんの中で篩 ふるい に掛けられて残ったのが彼らなのです。では、どうやって芸を仕込める優秀なお猿さんなのかを見分けているのでしょうか。実はそれに二足歩行が関係しているというのです。最初に二足で歩くということを教えて、それがいつまでもできないお猿さんは落第なのですね。ここがクリアできないと他の芸を教え込むことが難しいからだといいます。実は二足歩行を覚えてしまうと、それ以外の芸もスポンジが水を吸うごとくにスイスイと仕込めるというのです。この話は二足歩行と脳の発達の関係性を示唆しています。ニホンザルの二足歩行と大脳の一次運動野の関係性を考察した近畿大学医学部の中 なか隯 じま克己医学博士の「ニホンザルの二足歩行と一次運動野」という論文があります。二足歩行を教えられたニホンザルを「トレッドミル」というフィットネスクラブなどにあるウォーキングマシーンに乗せ、歩行中の脳の活動を考察したものです。博士は「大脳新皮質には人間が二足歩行能を獲得するまでの進化の足跡が刻印されている」と言います。

「重力の拘束から解放された手指は自由度の高い精緻運動を行い得るが、常に重力に拘束される足趾は自由度の低い運動しか行えない、しかし足趾運動は、重力によって足趾の接地面に生じる抗力(床反力)を介して、重心の変動を巧妙に調節できる。この制御機能が如何に精緻で卓越したものであるかは言うに及ばず、四足歩行を常とする4700種余の現存哺乳動物が雄弁に語っている(中略)皮質脊髄路は系統発生学的に高度な動物ほど発達し、類人猿とヒトではその極みに至る。特にCM投射(皮質から脊髄細胞の運動神経プール)は霊長類のみが有する制御系であり、原猿類ではまばらに認められ、旧世界ザルで顕著となり、類人猿やヒトにおいて最も発達する。」(中隯氏前掲論文)人間は二足で歩くことによって上肢が解放され、手指の巧緻な運動ができるようになり、それが、脳の発達において重要な転機になったというのは有名な話ですが実は脳の発達にとっては二足で重力に抗しながら制御する高度な下肢機能も、非常に特殊で脳の重要な発達の契機としてあるのです。「我々が観察した下肢領域のM1細胞(一次運動野)、特に下肢筋を標的とするCM細胞が重心の制御に深く関わるという成績は手指の巧緻性と体幹制御の巧緻性が表裏一体の関係にあることを神経生理学的に裏付けるものであり、太古のヒト科祖先が重力に抗いながら巧みに立ち上がり二足歩行するまでの過程で中枢神経系に生じた変容の足跡を暗示している。」(中隯氏前掲論文)人間が二足で歩行するということは、大脳の発達と密接に関わりがあり、人間の下肢の筋肉制御、体幹の制御が手指に劣らぬ巧緻性を見せており、それが歩行を可能にしているのだと博士は結論付けています。二足歩行と大脳の発達、それらとの密接な関連性の刻印が私たちが普段何気なく行っている歩行を知ることで顕 あらわ になってきます。この論考では当然、系統発生学的な種の問題として語られているわけですが、先にお話しした猿回しのサルの話と合わせると個体の脳の発達段階においても二足歩行というのは関係しているのではないかと考えてしまいます。人間は二足で歩くことで、DNAによる設計図の最後の詰めともいうべきものを、脊柱構造においても、大脳においても行うのではないかということです。実際、運動が脳ニューロンの大量新生を起こすことが分かっています。シナプス近くの貯蔵庫に蓄えられたBDNF(脳由来神経栄養因子)は血流が盛んになると放出され、ニューロンの発達を促します。さらに、IGF−1(インスリン様成長因子)、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)、FGF−2(線維芽細胞成長因子)などのホルモンが体内から脳に送られニューロンの発育に寄与します。とりわけ面白いのはIGF−1の働きです。主に筋肉がエネルギーを求めた時に出るもので、体内ではインスリンと協力して細胞にグルコースを運んでいますが、脳内では少し役割が変わり、学習や記憶を強化する働きをするのです。IGF−1はニューロンを活性化して神経伝達を促進するグルタミン酸やセロトニンの生産を増強し、さらにBDNF受容体の育成を促してニューロンの結びつきを強化し、学習による記憶を確実なものにしています。アメリカ、イリノイ州ネーパーヴィルの高校生達は「0時限」という学習準備の「運動の時間」を取り入れる〝だけ〟で、TIMSS(国際数学・理科教育動向調査)において、数学は世界6位、理科に至っては世界1位という驚異的な成果を上げています。90歳になっても、心拍数の増加による全身の血流量の増大によって脳ニューロンの新生は起こり続けますが、新生したニューロンは、役割が与えられなければ死んでしまうことも分かっています。常に刺激を与え続けなければいけないのです。歩行によって幼児の運動量は劇的に増えます。そして彼らはいつも走っていて、様々な物に興味を持ち、触り動かして止まることがありません。そうやって彼らはせっせと新生したニューロンに情報を送り、脳を発達させているのです。

この論文中には猫の歩行についての考察があります。猫や犬が歩く時には〝大脳が関係していない〟ことが報告されています。彼らは大脳という高次な脳を駆使しなくとも、支え無しで立ったり歩いたりできるのです。「その歩容は無目的で、壁や障害物に直面しても真っ直ぐ進み続けようとし、偶然に進行方向が変わった場合でもさらに直進し続ける」といったものですが、人間は立っていることでさえ大脳の複雑な制御が必要なことを考え合わせると、二足歩行には大脳の緻密な制御はもちろんですが、骨格における構造的な特殊性も必要なのではないかと考えられます。実は、人間の姿勢制御には、この論文で語られているような神経生理学的な

観点からだけでは説明できないことがあるのです。

 

身体のバランスをとるのに「神経だけでは間に合わない」という事実

小脳は全身の筋肉や腱から情報を集めて人の筋肉を制御し、姿勢制御や各種の運動などを可能にしているわけですが、実は人間というのは、それだけでは、その多彩な運動は実現できないのです。私たち人間の基本的な動作である歩行ですら、脳の命令だけでは実現できません。

私たちが思い描く素朴な発想とは、やはり脳が神経系を駆使して様々な筋肉を制御することによってのみ、それらを実現させているのだろうということになるかと思います。難しい言い方をすると平衡持続性反射といいますが、脳と神経と筋の連動によってのみ人間の姿勢の保持や歩行などの運動が達成されていると、皆さんは漠然と考えていると思います。しかし、それは物理的に不可能なのです。人間が走ったり、跳んだりといった時に転倒せずに姿勢を保持する際に、脳の命令だけでそれら

を制御するには神経の伝達スピードが〝遅すぎる〟のです。私たちの神経の伝達速度はだいたい秒速120メートル程度なのですが、立っている際の基本的な姿勢制御ですら、それでは間に合いません。それを実現するには、秒速で1000メートル以上のスピードが求められるといいます。コンピューター制御によって鉄の棒を倒さないように立たせておくという「倒立振子」の実験があります。棒の根本に傾きを感知するセンサーをつけてコンピューター制御によって倒れないようにするというものですが、人間の神経の伝達速度では全然間に合いません。たかが棒を立たせておくだけの姿勢制御すら間に合わないのです。これは人間の直立姿勢保持や、歩くこと、走ることを実現するためには、当然ながら〝何か別の機構と構造〟が存在していなければならないということを意味しています。

 

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