解説付き週刊連載「身体構造力〜日本人のからだと思考の関係論〜」❼ 第1章「身体と構造の力」の5 仙腸関節は重力を感知してバランスをとる
2025/09/30
仙腸関節は重力を感知してバランスをとる
神経伝達による脳の制御だけでは人間の運動を実現させることはできません。それを可能にするのは人間の骨格構造です。脳を介さずに「独自に重力を感知する高度なメカニズム」がそこにはあるのです。人間における単純な姿勢保持から始まって二足歩行、さらに複雑で高度な運動を可能にしているのは電気的な信号による制御だけではなく、地球上の生物が発生した時から影響を受け続けてきた力である「重力」の利用です。思えば、先にお話しした水分を移動させてバランスをとろうとするのも結局重力を利用したものです。しかし、水分を移動させる上では制御の役割を果たした神経系を介さずに、自律的に重力を感知してバランスを保つというメカニズムが人間の骨格には備わっているというところが重要です。いくつかポイントがあるのですが、一番重要なものは骨盤にあります。それが〝不動の平関節〟として既存の医学ではあまり重要視されていない「仙腸関節」です。先に述べましたが仙腸関節はその名の通り、寛骨の一部である腸骨とハートのような三角形をした仙骨とが作る関節です。仙腸関節の関節面の構造は素晴らしい軸受け(ベアリング)機構となっています。ただし、このベアリングは荷重がかかっていない状態では動きませんが、関節面に対して面圧をかけると生き生きと動き出します。関節面における生理的な状態とは、工学的な視点からすると、実は〝適度な圧力がかかった状態〟なのです。関節は圧力をかけることによって潤滑がスムーズになる。この生理的な潤滑にまつわるお話はとても重要なのですが、残念ながらここでは紙数を使えません。ただし、多くの整形外科で行われる牽引治療は関節の動きをスムーズにするという目的とは裏腹に実は関節の生理的な潤滑を妨げるものになるという事実だけはお伝えしておこうと思います。骨格も筋肉も血管も神経も、それこそ細胞全て、人間は全身に重力がかかることで生き生きと動き出す構造を持っているのです。それはさておき、単なる不規則な凸凹だと思われていた仙腸関節の関節面は、潤滑液の保全や循環、圧力流体の形成や応力を分散するのに最適なものだということが分かっています。
仙腸関節は重力による圧力をかけられた際に潤滑液の流れに一定の方向を作ることができる構造なのです。仙腸関節は三角形の仙骨を両側の腸骨が挟みこんでいる(テーパー)構造です。さらにその腸骨を含む骨盤を支える大腿骨頭の角度は内向きに135度曲がっています(頚体角)。重力がかけられた状態ではその三角形の3つの面にそれぞれ同じ比率で圧力がかかることになります。実はこの構造は、重力のかかり方を調整する〝天然の定量器〟となっているのです。この構造が実現するものは「人間は両足で立っている状態でも片足で立っている状態でも一方の足にかかる荷重が等しくなる」ということです。この仙腸関節のベアリング機構が電気的な制御のみでは到底実現することのできない人間の「片足での姿勢保持」を可能にしているのです。さらに歩行運動における姿勢制御でも仙腸関節は驚くべき機能性を発揮します。
歩行を実現する骨盤のジャイロ効果
人間が二足で歩いている時に骨盤はどのような動きをしているのでしょう。ここにこそ人間が二足歩行できる秘密があります。骨盤は先にもお話ししましたが、4種類の骨から構成されています。腸骨1対、坐骨1対、恥骨1対、そして仙骨です。仙骨以外をひとまとめで寛骨といいます。二足歩行の際、骨盤は恥骨結合を中心としたクランク軸2軸で回転していることが分かっています。その際、大きな寛骨は自動車の動力部に見られるフライホイール(弾み車)の役割をしているのです。この左右交互のリズミカルな回転がジャイロ効果を生み出しているのです。
端的にいうと、これは回っているコマが倒れない力や走っているオートバイが起き上がろうとする力と同じものです。骨盤の回転軸は仙腸関節の下部を水平に貫く線です。ジャイロの性質は中心軸と直角に交わる向きが進行方向となります。人間の機構は前に進むように作られているのです。そのおかげで人は目を瞑っていてもある程度は真っ直ぐに歩けるのです。歩いている限りジャイロ効果で骨盤には重力に抗して立ち上がろうとする力が働きます。さらに回転の速度が上がれば上がるほど立ち上がろうとする力は強くなります。しかしこれらの働きも仙腸関節のベアリングにしっかりとした荷重がかかっていることが条件になります。重力荷重こそが機能発揮の要なのです。古武術でも、日本の伝統芸能でも、または気功法などの身体操体法でもそうですが、下半身は親指側(内側)に重心をかけることが基本です。いにしえの人は経験的に正しい身体操法が分かっていたのです。私の所に来る患者さんは様々な愁訴を抱えていらっしゃるわけですが、ほとんどの人は基本的に重心の乗せ方を間違えています。根本的なところで身体の使い方を間違えているのです。仙腸関節のベアリング機構をうまく使えていないので、動きにリズムがなくなり、全身のダイナミズムが失われているのも様々な愁訴の原因となっているのです。
片足支持期では脳の活動が落ちる
中隯博士の論考は神経生理学的観点からの二足歩行と脳についてのみ書いてあるので、先述した仙腸関節のベアリング機構のような二足歩行を可能とする構造的な分析は当然ながら捨象されています。ですからこの論文だけ読むと、やはり私たちは、神経的な脳の制御だけで運動をしているという錯誤に陥りがちです。しかし先述したように「仙腸関節のベアリング機構」が存在しなければ、人間は二足での単純な姿勢保持すら難しいのです。実は、この中隯博士の論考の中に大脳制御以外の機構の存在を読み取ることができます。歩行運動の最中に片足で体を支える時間である片足支持期についてなのですが、この片足支持期においては、〝M1細胞の射出が少なくなる〟ことが報告されています。片足での姿勢保持、体幹支持の際になぜか脳の活動や司令が少なくなっているというのです。皆さんも子供の頃、漫画やアニメのキャラクター人形で遊んだことがあると思います。その際、片足で立たせておくことの方が難しかったはずです。普通に考えれば、片足支持期ではむしろ脳の活動は増えてしかるべきなのですが、逆の結果が出たわけです。博士はこの結果を受けて下肢の精緻な制御におけるM1細胞の役割として姿勢保持と体幹支持を除外せざるを得ませんでした。それでは、その姿勢保持は一体何が実現させているのでしょう。サルの骨盤構造と人間の骨盤構造は違うので一概にはいえませんが、やはり仙腸関節のベアリング構造及び骨盤のジャイロ効果以外には考えられません。この事実は、脳の神経制御以外の機構、メカニズムを使用することによって、初めて、直立二足歩行という生物において非常に稀な歩行が実現しているということを示唆するものといってよいでしょう。これは脳が先か、構造が先かという問題ではなく、骨格構造やメカニズムと脳とが相互に関わり合いながら「人間」というものを作る、そして作ってきたという刻印といえるのではないでしょうか。
空中における姿勢制御
人間の二足歩行を可能にする上で高度な脳神経的な制御の他に重力を定量化する仙腸関節という構造的機構が重要な役割を果たすことが分かりました。しかし、これはあくまで地に足がついている状態での話です。足の裏から伝わる反床力というものが必要でした。それでは地に足がついていない状態、空中における姿勢制御はどうなっているのでしょう。実は、ジャンプして身体をひねったり、宙返りしたりという空中での運動に関してはまた別の機構が働いています。
人間の脊柱は重力に対して垂直に背骨を立てるという特殊な要求を果たすため、その進化の過程で独特な弯曲構造を獲得しました。脊柱は7個の頚椎、12個の胸椎、それに5個の腰椎、5個の椎骨が1つになって三角形の形をした仙椎とそれに連なる尻尾の名残である3〜5個の尾椎からなっています。
椎骨には椎孔という穴が開いておりそれが縦に連なって脊柱管を作り、そこに脊髄が収まっています。各椎骨は上下の椎間関節の部分と椎間板というクッションが挟みこまれた部位で連結されています。各部での生理的弯曲については先述の通りですが、弯曲しているということはそれぞれの椎間関節に少しずつ傾きがあるということですね。その傾きは主に椎間板によって作られているのですが、その椎間関節の傾きが0度になっているポイントが何点か存在しています。その場所はそれぞれの椎骨の移行部と呼ばれるものです。上から後頭骨と第1頚椎の間(環椎後頭関節)、第7頚椎と第1胸椎の間の頚胸移行部、第12胸椎と第1腰椎の間の胸腰移行部、第5腰椎と仙骨の間(腰仙移行部、腰仙関節)です。これらの部分は前弯から後弯へとベクトルの方向が変わる部分なので、傾きがない状態です。ここもまた構造的に重力を感知する平衡器の役割をしています。この各部位の働きは、身体の傾きが身体の前方を通る生理重力線からずれた際に、起き上がり小法師のように、自動的に重力線に戻そうとするものです。各部が傾いたりした場合に、重力を感知して必ず0度を維持しようとするのです。当然、その場合は構造を支えている靭帯や筋肉の緊張も利用するわけですが、補助的なものです。あくまで基本は「構造の力」なのです。また、これらの部分は脊柱の構造上、応力が集中しやすい部分でもあります。悪い姿勢が習慣化してしまうと、わりと簡単にこの部分の機能的な平衡が失われてしまいます。そうなると上半身の姿勢制御という点で筋肉の依存度が高まり、脱力できなくなったり、胸椎の自然な回旋運動が妨げられたりします。めまいなどで第1頚椎(環椎)に問題がある場合が多いのは頷けますね。悪い姿勢によって、構造の力が発揮できずに環椎後頭関節の自然な動きが制限されてしまうからです。交通事故のむち打ち損傷などで難治の患者さんもたくさんいらっしゃいますが、この環椎のズレを放置している方が少なくありません。さらに、上半身の平衡を保つ上で重要な関節があります。それは顎関節です。
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