解説付き週刊連載「身体構造力〜日本人のからだと思考の関係論〜」 ❽ 第1章「身体と構造の力」の6 「顎関節は振り子のように重力を感じている」
2025/10/07
顎関節は振り子のように重力を感じている
ボクシングで相手のKOを誘うパンチを当てる場所といえば「チン」と「テンプル」がよくいわれます。「チン」とは顎先のことで、ここはクリーンヒットではなくてかすっただけでも立っていられなくなります。失神することはなくとも、フラフラしてなかなか立ち上がれない。傍目には大した衝撃では無さそうなパンチなのに、まるで船酔いに襲われているようになってしまっているボクサーを皆さんも見たことがあると思います。これは一般的には顎先に衝撃を受けることによって、脳が揺さぶられて一過性の脳震盪を起こしてしまうためだといわれてい
ます。また、もう一つの急所である「テンプル」とはこめかみのことです。ここにパンチが当たるとやはり一瞬で平衡感覚を失い、立てなくなります。焦って立ち上がろうとしても身体が左右
に大きくフラつきうまくいきません。脇を締めて拳を握りしめ、何とかファイティングポーズを取ったとしても、その後のパンチは弱々しく、身体の動きも明らかに精彩を欠き、本人もレフリーも、そして見守る観客達も試合の終わりが近いのを感じるのです。テンプルが急所である理由は、一般的には頭蓋骨の中で骨の厚みが一番薄い部分だからだといわれています。厚みが薄い分、脳への衝撃が伝わりやすいということです。脳の真横からの衝撃となるので、ひどい損傷の場合はパンチを受けた側と反対側の頭蓋骨にそれぞれ脳が衝突し て し ま う と い う 状 態 と な り ま す。こ れ は 専 門 的 な 言 葉 で は「 コ ン ト ラ・ク ー(contre-coup)」といいます。日本語では「対側打撃」と訳されます。
脳は頭蓋内に満たされた液体(脳脊髄液)の中に浮かんでいます。頭部に衝撃が加わると、まず頭蓋骨が移動し、遅れて脳が移動します。そこで、まず、衝撃が加わった場所の頭蓋骨に脳がぶつかり(クー)、次に、脳が反対側に引き戻され反対側の頭蓋骨にぶつかります(コントラ・クー)。しかし、その場合は立ち上がれないとかフラついてしまうといったレベルのも
のではありません。一瞬で意識を失ってしまうでしょう。そして、試合後には何らかの脳の外傷が見つかるはずです。立ち上がれてもフラついてしまう、さらに試合中に回復するといったレベルではそこまでの損傷は見つからないことが多いわけです。顎を揺らされたり、こめかみを打たれたりした際に、ボクサーがまともに立っていられなくなる原因としては、確かに脳が揺らされての脳震盪というのもあるでしょうが、軽微なフラつきはそれだけでは説明がつきません。私は、衝撃による顎関節の一時的な機能不全が一時的なフラつきやめまいの理由としては重要なのではないかと思っています。頭蓋骨にぶら下げられた下顎の骨は振り子のように重力を感知して上半身の平衡を可能にしています。この振り子の不具合が、人の平衡感覚を簡単に奪うのです。
こめかみ部分に関わる頭蓋骨は側頭骨と蝶形骨ですが、ここでは「側頭骨が薄い理由」を考えます。第一に側頭骨には穴が空いています。穴は外耳から続く耳管のための穴で奥には耳小骨や蝸牛管があります。そして、その上の窪んでいる場所がありますが、その窪みは下顎骨の骨頭である下顎頭がはまり込んで顎関節を形成するための関節窩となっています。こめかみとはどのような場所かを『大辞林(第三版)』で調べてみると、このように書いてあります。
「〔米を嚙むと動く所、の意〕目尻と耳の上の間にある、物をかむと動く部分」口を動かしつつ頭のわきを触ってみると、確かに動いている場所があります。その少し下側では下顎頭の動きが明瞭に触知できます。テンプルへの打撃は顎関節への打撃なのです。両側の側頭骨にぶら下げられた下顎骨は、まさに分銅のように動いています。その自由な動きを確保されている場合、重力の方向を常に感知することができます。私たちは頭蓋骨からぶら下がる〝大きな振り子〟を持っているのです。そこへの衝撃、そして機構の破壊は、周りの筋肉の拘縮を呼び起こし振り子の自由な動きを制限してしまうことになります。不意のめまいというのは人を不安にさせるものです。なんとかフラつきを抑えようとして、つい歯を食いしばってしまう場合が多いのですが、それはめまいをさらにひどくします。めまいの患者さんには「食いしばり持ち」の方がとても多いのですが、長年の習慣による筋肉の拘縮が起こす顎関節の動きの悪さがあります。この場合も顎の動きの悪さがめまいを引き起こすという意味ではフラつくボクサーと同じなのです。上半身の平衡感覚にとって顎関節とは非常に重要な場所だということがお分かりいただけたと思います。
チンやテンプルに衝撃を受けてダウンしたラウンド後のインターバルでは顎関節の拘縮に着目して、顎関節周辺のマッサージや顎関節の整復などをセコンドが行うことによって、素早い回復が可能になる場面が少なからずあるのではないでしょうか。の運動の支点はどこにあるのか顎の動きは見かけ上は下顎の動きが目立ちますが、その動きを実現するためには支点が必要です。上顎は一見動いていませんが、力学上は反作用的に運動しています。下顎が動くためには、頭蓋骨およびそれと一体化している上顎が固定されている必要があるからです。「動かない」という〝運動〟が必要なんですね。下顎が動いて口を開けようとしても上顎が固定されずに下顎の動きについてきてしまったら永遠に口が開きません。その逆もまたしかり。上顎骨が動かないためには頭蓋骨の固定が必要となります。その頭蓋骨を固定している支点は第3頚椎にあります。第3頚椎は頚椎の前弯の中心となっているもので、アーチ橋でいえばトップストーンの位置にあたります。頚椎の構造的な力を担保しているともいえるこの場所が不安定になることは、顎の関節の動きの不安定さに繋がるのです。それはとりもなおさず顎関節運動に余計な負担がかかるということを意味します。この頚椎の安定性と顎関節の健全さは相互に影響するもので、顎関節がおかしい場合も頚椎の安定性を脅かすことに繋がります。頚椎の前弯がなくなってしまうストレートネックの人は何かしら顎にも不安を抱えている場合が多いのはそのためです。頚椎の安定性は顎関節の動きと非常に密接かつ重要な関わりがあるのです。ストレートネックは近年よく知られる言葉となりました。一般的な説明では、頚椎の前弯減少によって本来の形である前弯の持つ「構造的な力」を活かせないので筋肉の負担が大きくなり、その結果として血流の不全が起こり、肩こりやめまい等が起きるのだといわれます。この説明はもちろん間違いではありません。構造的な力の穴埋めとしての筋肉拘縮はさらなる姿勢不良を生み出すことになるからです。
ただし、それだけではストレートネックという障害の本当に深刻なところを見逃してしまう気がするのです。先にもお話しした通り、頚椎というのは他の椎骨に比べて特殊な進化を遂げたものです。頚椎の横突起に開いた横突孔と、そこを通る椎骨動脈がポイントです。頚椎の歪みは、そのまま血管の蛇行に繋がります。脳への血流の蛇行は人間の血圧を決める重要な要素となります。また第1頚椎の歪みは脳脊髄液の循環の不具合を起こしますから、内科的にも精神的にも様々な愁訴の原因に繋がってきます。人間は脳だけではなく、様々な構造の力、構造的機構を使ってバランスをとっています。そして、脳はそれらとの連携によってこそ、十全に発達し、機能するのです。しかし、これらの構造の歪み、構造の問題点が引き起こす症状というものに対して、現状の医学は全くといっていいほど考慮していません。ただ、この医療における構造の軽視は時に人一人の人生を変えてしまうこともあるのです。
です。
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